アスリートへの成長ホルモン使用の影響

アスリートへの成長ホルモン投与は除脂質体重は増やすが、それがパフォーマンス促進には働かないという結論のシステミックレビュー
むしろ、運動能力低下を導く可能性さえあるのだ!

Systematic Review: The Effects of Growth Hormone on Athletic Performance
Ann Int Med. Vol.148(10) May 2008
成長ホルモンが身体的パフォーマンスを促進するといううたい文句は科学的文献に支持されているわけではない。成長ホルモンがlean body mass(除脂肪体重)を増加させるというエビデンスは限られているが存在する。しかし、筋力を改善する訳ではない。加えて、運動能力を悪化させ、副作用増加となる可能性がある。
結論としては、さらなる研究が必要ということは言うまでもない。


クライテリア合致の27の研究、44文献
成長ホルモンを受けた303名、13.3人年治療

参加者は若く(平均 27歳[SD,3])で、除脂質体重指数 24kg/m2[SD,2]、身体運動(最大酸素摂取 51mL/kg体重/min[SD,8])

成長ホルモン投与量(平均 36μg/kg/日[SD,21])
治療期間(平均 21日[SD, 18]はばらつきが大きい

除脂質体重は成長ホルモン投与群で大きい(増加, 2.1 kg [95% CI, 1.3 ~ 2.9 kg])が、筋力・運動能力の改善は見られない。

運動時乳酸値は有意に高い(3研究中2つ)

成長ホルモン治療参加者は軟部組織浮腫、拾うが、非投与群に比べ多い



体組成への影響


筋力への影響


メタボリズムへの影響:基礎代謝、安静時RER( respiratory exchange rate)・RQ(espiratory quotient)、安静時心拍




乳酸との関係に興味があるので抜き書き
成長ホルモンは運動能力に改善をもたらさないどころか、悪化の可能性がある。運動による乳酸値は非成長ホルモン投与群に比べ投与群で高値となる当報告が2/3であった。
運動中の乳酸値増加は運動stamina減少とphysical exhaustionに関連する(Sports Med. 2003;33:407-26.)
Langeらの二重盲検研究( J Clin Endocrinol Metab. 2002;87:4966-75.)で、非投与のプラセボ群で、自転車競技者7名中2名が運動プロトコールを完遂、1名は繰り返しで再現性あり。成長ホルモンが運動時乳酸値を増加させるということは明らかでなかったが、ミトコンドリアの脱共役蛋白の増加、ピルピン酸脱水素酵素の選択的抑制の増加と関連しているのかも知れない。
加えて、成長ホルモン投与群のglycerol濃度増加は代替的糖新生precursorを供給し、肝臓による乳酸クリアランスを減少させ、血中乳酸を増加させることとなったのかも知れない。
運動能力は3つの研究では乳酸値で評価しているので解釈に注意が必要かも知れない。
しかし、成長ホルモンがかえって運動能力を引くからしめる可能性について知見が得られたのは大きい。



「乳酸=疲労物質」との概念というか、そういう概念の怨念が、解釈困難としている。

乳酸シャトル説 (lactate shuttle) とモノカルボン酸輸送担体(monocarboxylate transporter: MCT)



嫌気条件下の迅速なATP産生が、筋肉はパワーを出す時に必要。乳酸は、定常的な得寝リルぎー必要性と短期的パワーの要求と、その濃度が増加することでlactate shuttleを惹き起こすことで較正されている。疲労は、燃料濃度という観点というより、グリコーゲンからブドウ糖へのfluxという観点から見るべきという話
Exerc Sport Sci Rev. 2005;33(4):157-162.
・Triggered 31P NMRにて筋収縮は、迅速な非酸化ATP産生を数ミリ秒必要必要とすることが示された。
・糖新生と筋収縮はCa2+にて数ミリ秒でスイッチオンする
・糖新生はPCr再供給のため、収縮の数ミリ秒の間ATPを必要とする。
・収縮の間にグリコーゲン・プールは再充填され、グリコーゲンは一時的なエネルギーバッファーとしての役割を果たす。
・乳酸は細胞内排出量と産生量が等しくなるまで筋肉内に、蓄積する。この蓄積は、迅速な解糖によるATP産生と収縮サイクルのネットのエネルギー産生のほとんどをまかなう酸化過程のミスマッチから生じる。
・重度の好気的運動によりグリコーゲン濃度が低く、比較的それが一定の時に、疲労が生じる。筋肉の運動はグリコーゲンを通したブドウ糖fluxによりサポートされ、濃度よりflux rateの減少が疲労までの時間に影響を与えるというメカニズムが提唱されている。

by internalmedicine | 2008-03-27 14:13 | 医療一般  

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