2年前:医療制度改革関連法案強行採決

後期高齢者医療制度制度、いまからが大変なのである・・・まだ、老人いじめは始まったばかり・・・(医療保険者による後期高齢者医療支援金の減算・加算)<言っておくが、いままで国が実質加算をしたことがあったろうか?・・・こんなもの減算9:加算1程度と想像できる>・・・被保険者の個人負担はウナギ登り

そして、後期高齢者診療料という医療の質低下制度(ref. ひろがれ! 後期高齢者診察料ボイコット運動


国民はこのことを思い出すべきだ・・・郵政選挙で圧倒的議員数を得た自民党・公明党がいったい何をしたかである。
    ↓
2006年5月17日:高齢者の負担増や入院日数の短縮で医療給付費の抑制を図る医療制度改革関連法案について小泉純一郎首相の出席を求め質疑を行った後、与党側が採決を強行。自民、公明両党の賛成多数で可決した。これに対し、野党議員が採決阻止のため委員長席に詰め寄り一時、混乱した。
2006年5月18日:衆院本会議・強行可決


強力な後押し団体→
日本経団連:医療制度改革関連法案の審議にあたっての共同確認

マスコミ、特にテレビはこの時の法案に関してまったくと言ってほど報道しなかった。強行採決のときに突如報道し、あとは放置
参考:
小泉改革 6 / 医師会改革 / 医療改革関連法案強行採決資料
http://ameblo.jp/t-garasu/entry-10012578630.html

社民党のこの強行採決への抗議文
「公的医療費は、この間の数度に渡る患者負担の引き上げ、診療報酬の切り下げなどで、すでにぎりぎりまで抑えられている。さらなる医療費抑制政策は、医療を必要とする人の受診を抑制し、早期発見・早期治療を阻害する危険な方法であると言わざるを得ない。また、医療現場においては、小児救急医療・産科医療の危機、医師・看護師等の不足、医療事故の頻発や医療従事者の労働環境の悪化など、すでに窮状にある諸課題を取り返しのつかない事態へと追いやるものに他ならない。」


このときの民主はどうしたかというと
我々の主張が付帯決議で通ったと自己満足(参考:http://www.dpj.or.jp/news/dpjnews.cgi?indication=dp&num=898)


ただ、その後、後期高齢者医療制度廃止法案を衆議院へ共同提出したことは評価できる。




ところで、会員の間で公然と日医幹部批判が日常茶飯事となった。
外来管理加算、後期高齢者制度医療事故調などに関し、会員の総意を得ているとは思えない行動をみればそれも当然。メディアでさえ問題視しはじめた後期高齢者制度になんの意思表明も示さない状況なのだから批判されるのも仕方あるまい。・・・期がはじまったばかりということもあろうが・・・当事者能力に問題があることは確かだろう。


それにしても、郵政選挙に騙され・・・自分たちの生命権さえ危うくされそうになるとは・・・おもってもいなかったのだろうか?・・・全国民なんども警告してきたが・・・





「受診抑制施策による死亡増加数の検討」-EBMの手法を利用して-

○はじめに
 医療行政・施策というものは本来その費用と効果が充分吟味されてなされるべきものであり、財政的抑制効果をめざすのなら、抑制策に生じる負の部分もあわせ論議されるべきである。しかしながら、行政からの負の提示は国民にはなされていないように思える。為政者たちの思い込みで禍根を残すような医療施策における意思決定が行われることは許されることではない。コスト分析において費用削減分析とは、本来その負の作用の無い場合のおいてのみ使用すべき検討であり、ある程度の負の作用があるのなら、費用効果・費用利便性分析などを行うべきである。後者の場合は、有用値、利得や損失費用などを考慮に入れ分析すべきである 1)。負の作用を考慮しない費用削減だけの検討では、“副作用を説明せずに、毒薬を処方ようなもの”である。
 また、叙述的・会話的な手法は実地医療の世界では有用な方法であるが、施策上の意思決定は曖昧で感情的になりがちであり、より客観的な数値的な表現で議論する必要性を感じる。まさに“Evidence-based”な検討が医療施策にも求められているのである2)。
 今回、EBMの手法と共に、実際に外来受診抑制があった平成8年度から平成11年度をモデルにして、受診抑制による影響を検討した。

○方法
 無作為化比較試験(Randomized Controlled Trial:RCT)は、因果関係を研究する観察研究に対して、ある介入行為の効果や影響を調べる研究であり、介入事象による結果のみ差異として表すことができる。このRCTにより求められるARR(絶対危険度減少率:Absolute Risk Reduction)は、CER(Control Event Rate、対照事象率)とEER(Experimental Event Rate、実験事象率)との差であり、その逆数であるNNT(Number Needed to Treat)は、 “1人の不良な転帰を防ぐために治療されるのに必要な患者の数”であり、EBMの方法論として頻用されているものである。CERとEERの差は、介入事象、例えば或る薬剤を使用したことによる有害事象の発生頻度を減少させる程度を定量的に表す方法であり、有害事象を死亡と考えれば、死亡数を比較検討できる。
 死亡転帰について記載してあるARR、NNTを利用すれば医療行為により得られる利益としての死亡数の減少、逆にある医療行為により得られた筈の損失としての死亡数を計算できることになる。ARRやNNTはRCTやメタ分析などで出版された数値が存在する。本邦でも充分標準的に使用される薬剤の治験に関しても公表されている。受診抑制による薬剤の効果が本来発揮される筈の機会を逸したことによる死亡数を以下の如く推測できる。
 * 受診抑制による推定死亡者数=ARR(=1/NNT)×受診抑制率
 受診抑制率の予測に関しては、受診抑制が始まった平成9年をモデルに、厚生労働省統計表データベースから平成8年度厚生省「患者調査」と平成11年度厚生省「患者調査」を参考に、受療数の差をもって受診抑制率とした。疾患の性質上65歳以上の受診抑制率が代表値としてふさわしいと思われ、11.6%と推定した。同様に、厚生労働省統計表データベースから平成8年度の統計表名“再来患者の平均診療間隔の年次推移,施設の種類・傷病分類別”を用い、高血圧症、心不全、高脂血症2次予防の受療患者数を推定した。高脂血症1次予防の受療者数に関してはスタチン製剤の売上高から推定した。

○結果
(1)高血圧症
 厚労省データベースから平成8年度の調査において“本態性(原発性<一次性>)高血圧の項目からから心不全(うっ血性)を伴う高血圧性心疾患、心不全(うっ血性)を伴わない高血圧性心疾患、腎不全を伴わない高血圧性腎疾患、心不全(うっ血性)を伴う高血圧性心腎疾患、腎不全を伴う高血圧性心腎疾患、高血圧性心腎疾患,詳細不明、腎血管性高血圧(症)、その他の腎障害による二次性<続発性>高血圧(症)、内分泌障害による二次性<続発性>高血圧(症)、その他の二次性<続発性>高血圧(症)、二次性<続発性>高血圧(症),詳細不明”から8872千名と算出される。Cochrane review 3)に記載のあるARR(5年間:0.018[95%信頼区間0.004-0.028])であり、受診抑制による過剰死亡数(5年間)は18525[95%信頼区間:4117-28816]人と推定される。比例配分すれば年間3705人の生存機会を喪失させることとなる。死亡数以外にも、心血管系の合併症関して同様に計算すると、ARR(5年間)で0.053であり、5年間で54545人、比例配分すれば1年で10909人の心血管系合併症の増加をきたすことになる。

(2)心不全
 厚労省データベースから平成8年度の調査において、“心不全(うっ血性)を伴う高血圧性心疾患、心不全(うっ血性)を伴う高血圧性心腎疾患、うっ血性心不全、心不全,詳細不明”の項目から234千人と算出される。ただ、米国Framingham研究では50歳台で1%であるが、80歳を超えると約10%に相当すると記載(慢性心不全治療ガイドライ4)され、50-79歳まで43.0万人、80歳以上45.7万人と推定されるため、低い推定値となっている可能性がある。SOLVD I(NYHA分類II、IIIがエントリークライテリア)5)では1年あたりNNT25である。結果、過剰死亡推定数は1年間で1085人である。

(3)高脂血症一次予防
 平成13年8月分のスタチン類の売り上げ~換算しスタチン製剤服用中の高脂血症患者は約530万人と推定された。NNTは死亡に対するNNTは111(5年間)、急性心筋梗塞に対するNNTは42(5年間)である6)。過剰死亡推定数は5年間に対し5539人で、比例配分すれば年間1108人である。急性心筋梗塞発生数に関しては、5年間に対し126190人であり、比例配分すれば年間25238人の心筋梗塞の過剰増加をきたす。

(4)高脂血症二次予防
 厚生労働省統計表データベースシステム )から、不安定狭心症から慢性虚血性心疾患までの項目を総計すると約119万人であり、その中の高脂血症患者の推定は、第5次循環器疾患基礎調査(平成12年11月実施分)から推定(総コレステロール>220mg/dl)は42.8%となる。対象患者数はゆえに45.4万人である。ただ、二次予防に関してはコレステロール値の開始基準の低下が提言されており、また、スタチン類の中には急性冠動脈疾患予防効果のあるものがあり、現在の適応基準はさらに広がっているものと思われるため、死亡者数を過小評価している可能性がある。4S 7)を元に、死亡に対するNNTを5年間対し27とした。過剰死亡推定数に関して5年あたり1951人であり、1年に比例配分すれば390人である。

○考察
 この分析・推定法の限界に関して以下の限界がある。1)外来再診患者のみが対象である。対象疾患も死因のごく一部の疾患に過ぎない。2)一薬剤のみの効果推定であり、多薬剤による効果を考慮していない。食生活や運動などへの生活指導の効果など考慮していない。3)年毎に増加する人口増加と高齢者数増加を勘案していない。4)全例がRCTにおけるエントリー・クライテリアに相当しない。5)受療・再診回数の減少が外来受診受診抑制とはならない。
 1)から3)は死亡者数の増加の要因である。4)は曖昧な要因と言えるが、検討対象者は受診数を基本とするものであり、継続的な加療がなされている対象群と考えられ、診断基準を満たすだけの対象ではない為、RCTの適応基準に近似するのではないかと考えた。死因別死亡数では、脳血管疾患、心疾患の合算より多い悪性新生物やその他、感染症による死因などは今回の検討(平成11年度労働厚生省人口動態調査から)では除外され、受診抑制による早期診断の遅れとそれによる生命予後の悪化は今回の検討項目ではないなど、死亡者数が増加する要因が勘案されていない。5)に関しては今回検討の病態は本来同月内の再来数に影響を与えるような症状・病態ではなく、本来今回の検討している病態には再診回数の減少の影響は少ないものと考えられる。
 高血圧性心疾患、心疾患、脳血管疾患の疾患別年齢調整死亡率が平成8年度と平成11年度と変化していないことは、それまでの減少傾向が鈍っていることと関係あるかどうかは不明であるが、今回の検討ではRCTをモデルにしており、背景すなわち、対象事象率(CER)の増減にかかわらず、実験事象率との差で検討しているのであり、薬剤治療以外の要因が入り込めない条件で検討されている。故に年齢調整死亡率の減少の原因は他にあると考える。例えば社会的リスクの減少や人口の自然増と高齢化による対象者の増加も影響を与えていると考えられる。実際に、65歳以上の死亡者実数は平成9年度708499人、平成11年度773137人と9%程増加している。
 受診抑制を生じれば疾患の進行・悪化への治療介入の機会を逸する患者が発生し、それが死亡や合併症とつながる疾患であれば、死亡率や合併症罹患率の増加をもたらす、という事実を認識すべきである。ただ、薬剤にはその効果の限度と副作用の問題があり、この検討を有害事象にひろげればNNH(number needed to harm)との関連も問題になる。費用効果・費用利便性分析などを必要性がでてくると思われる。
 医療施策を決定する場合、効用の減少もあわせ、施策の意思決定の参考となる資料とそのエビデンスとその定量性をもって公表すべきである。その後、初めて根拠ある議論がなされると思われる。
 治療効果が確立した病態への受診抑制は必ず“犠牲者”が生じることは、医療施策上の前提として為政者は肝に銘じるべきで、決して叙述的、感情的な議論のみで医療施策の意思決定をしてはならない。

○結論
平成8年から平成11年度の受診抑制をモデルにした受診抑制率11.6%により、代表的RCTにより得られるARR・NNTから得られる推定死亡増加数は、1年あたり高血圧症3705人、心不全1085人、高脂血症一次予防1108人、高脂血症二次予防にて390人である。

1. シナリオで学ぶ医療経済学入門、J.Jeffersonら 酒井弘憲ら訳、サイエンティスト
2. Evidence based policy: proceed with care  BMJ 2001;323:275-279 
3. Pharmacotherapy for hypertension in the elderly Mulrow C, Lau J, Cornell J, Brand M. In: The Cochrane Library, 4, 2001. Oxford
4. 慢性心不全治療ガイドライン (2000) Jpn Circ J 64(Suppl.4):1023-1079, 2000
5. Effect of enalapril on survival in patients with reduced left ventricular ejection fractions and congestive heart failure. The SOLVD Investigators. NEJM 1991; 325(5):293-302.
6. Influence of pravastatin and plasma lipids on clinical events in the West of Scotland Coronary Prevention Study (WOSCOPS). Circulation 1998;97:1440-5
7. Baseline serum cholesterol and treatment effect in the Scandinavian Simvastatin Survival Study (4S)Lancet. 1995 May 20;345(8960):1274-5.

by internalmedicine | 2008-04-15 15:10 | その他  

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