意思決定のための情報提示:グラフ化を患者は好む

We are drowning in information while starving for wisdom.
「我々は情報の洪水におぼれているが、知識に餓えている」—E.O. Wilson


情報を提示しても、それが患者の意志決定につながらなければ何もならない。
“事前確率”、“オッズ比”、“NNT”、“ARR”など、若い医師たちにはなじみでもEBMの洗礼を受けてないロートル医師たちにも、度重なる説明が必要な用語である。ましてや、患者さんたちに理解してもらうというのは尋常なことではない。検査選択や治療選択を必要とする患者さんたちに質の高い意思決定をしてもらう場合に重要な言葉だが、それを理解してもらうことは非常に困難を伴う。

“living with uncertainty"というトランプカードやコイントスのような状況、それはプライマリケアの必須成分であるが、それをエレガントに表現できたらなんとよいことだろう。

今回の検討は、2003年BMJ(2003;327:741-744 (27 September))を踏まえた研究で数値的表現より非数値的表現が理解を助けるとのこと。

介入に関係したリスク表現のプレゼンテーションが下手なため、治療上の“poor decision”を生ぜしめることがある。
「イベント確率、条件付き確率(感度・特異度など)、相対リスクなど」の意味の混乱があり、患者に統計的情報をいかに説明できるかが、“情報と意志決定”について重要である。


以下の論文では、
「患者を中心にした医療」というお題目のもと、意志決定のshareがなされていることとなっている。この目標の具現化のため、患者に“自身のリスク”と“治療のベネフィットと有害性”の情報を与え、理解させ、情報解釈をしてもらう必要がある。

オッズ比、NNT(number needed to treat)、ARR(absolute risk reduction)、RRR(relative risk reduction)、natural frequency statementなどの数値表現ができるが、これを患者に説明、患者に理解してもらい、意志決定してもらうことなどほとんど不可能とも思える。

パーセンテージや比率などと表現したり、ポジティブやネガティブな表現、数値・図化形式で提示などがなされるが、患者の好みはどうなのか?・・・そういう検討



Patients Prefer Pictures to Numbers to Express Cardiovascular Benefit From Treatment
Annals of Family Medicine 6:213-217 (2008)
既知心疾患を有する患者に予防治療ベネフィットを表現する、どの方法か決定する目的、また、どの方法を患者が好むかという目的の研究

New Zealand、Aucklandの研究で、心疾患既往(心筋梗塞、狭心症、もしくは両者)の患者でスタチン服用中の患者

仮説的治療のベネフィットを表現する手段のどれを好むかインタビューしたもの

具体的には→http://www.annfammed.org/cgi/content/full/6/3/213/T1

ベネフィットを数値的に表現するか、グラフ的に表現するかというものである
提示グラフ

100名の適合患者で、53%の返答率

【結果】
・リスク・プレゼンテーションとは無関係に、大多数の患者は、積極的治療を選択する
・3分の2は、ほかの方法より、よりベネフィットを示す治療法を好む
・上記グループ中では、57%が“グラフ化された情報”を好んだ
・グラフ化の57%は、次順位の別オプションである“相対リスク”19%より、有意に多かった
・“絶対リスク”(13%)、"natural frequency"(9%)などの言葉を好む患者は少ない
・1名(1%)のみ“オッズ比”という表現を好む
・NNTを好むひと無し
・90%がpositive framing(治療のベネフィット記載)をnegative framing(無治療のharm記載有害性)より好む<
/blockquote>

上記研究の一つの結論は、データをグラフを用いてプレゼンテーションすることが重要だが、実際にはそういうトレーニングが医学校や、レジデントになされていない。この関係は、Tulteの著作物が有名である。
Tufte E. The Visual Display of Quantitative Information. 2nd ed. Cheshire, CT: Graphics Press; 2001.(amazon.co.jp
Tufte E. Envisioning Information. Cheshire, CT: Graphics Press; 1990.(amazon.co.jp




データを他の人に伝える場合にもグラフは役に立つ。だが、グラフをつかって相手をだますことも容易である。

“近年有名な少年殺人が増えた”という嘘情報
1980年あたりから少年殺人が急増した
意思決定のための情報提示:グラフ化を患者は好む_a0007242_1646959.jpg


実は下のグラフの一部を示しただけである


(http://kangaeru.s59.xrea.com/G-Satujin.htm

by internalmedicine | 2008-05-21 15:21 | 医療一般  

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