低HDL血症と虚血性心疾患:ABCA1遺伝子機能欠損変異の影響:否定的報告

さて、いかなる解釈となるのか・・・ABCA1と低HDL血症と住民研究の"causal effect"研究

HDLコレステロールは、”長寿”と直結したエビデンスがあるかというと疑問を呈している報告がある(e.g. Journal of Epidemiology and Community Health, Vol 42, 60-65)。
”長寿症候群”なるものは、条件付き確率P(高HDL血症|長寿)による幻想だったのか?
ただ、”dementia-free"、"Cognitive Function in Exceptional Longevity"なる検討がHDL値ではなされているようだ・・・

HDLコレステロール値に影響を与える遺伝子:(Circulation. 1995;91:505-512.)

低HDL血症のうち、家族性低αリポ蛋白血症や家族性アポリポ蛋白A-I欠損症で問題となる。

ATP結合カセット膜トランスポーターA1(ABCA1)は、ATP-結合カセットトランスポーターのsuperfamilyのメンバーで、細胞内外を横断し、7つのsubfamily(ABCA, MDR/TAP, MRP, ALD, OABP, GCN20, White)に分けられる。
コレステロールを基質として、コレステロールefflux pumpとして、細胞内からの除去システムとして働き、この変異はTangier病や家族性HDL欠損症と関係するものである。

HDLコレステロール低値は、虚血疾患リスク増加と関連するが、そのcausal effectは不明であった。
HDLコレステロールに関連する遺伝子、これが明瞭化すれば、随分話は簡単になるようだが・・・


一般住民研究2つ、症例対照研究1つ
・Copenhagen City Heart Study (CCHS),
・Copenhagen General Population Study (CGPS)
・Copenhagen Ischemic Heart Disease Study (CIHDS)

Frikke-Schmidtらは低HDL-C濃度と、ABCA1遺伝子の機能欠如変異と虚血性心疾患リスク増加を、“casal-effect”を評価

4つの ABCA1 変異 (P1065S, G1216V, N1800H, R2144X) のheterozygotesか非キャリアかを検討

この変異の有無により、HDL-C値 41 mg/dL (中間4分位, 31-50 mg/dL) vs 58 mg/dL (中間4分位, 46-73 mg/dL)で、HDL -C 17 mg/dL (P < .001)減少に相当

CCHS研究でのHDL-C 17mg/dL低下は、IHD多因子補正ハザード比1.7(95%C信頼区間(CI), 1.57-1.85)に相関

heterozygotes vs 非キャリアのIHDリスク比は、多変量解析補正ハザード比で、CCHSでは0.67(95% CI, 0.28-1.61; 1741 IHDイベント)、CGPSでは 0.82(95%CI, 0.34-1.96; 2427 IHDイベント)、CIHDSでは 0.86(95%CI, 0.23-2.32;2498 IHDイベント)

heterozygotes vs noncarriersのIHD対応オッズ比は、0.93(95% CI,0.53-1.2)


そして、非キャリア比較で、変異のheterozygosityによるHDL-C濃度と虚血性心疾患リスクの関連を見いだせなかった。

Association of Loss-of-Function Mutations in the ABCA1 Gene With High-Density Lipoprotein Cholesterol Levels and Risk of Ischemic Heart Disease
JAMA. 2008;299(21):2524-2532.


病因疫学研究の目標は”true effect"を推定することだが、疫学的にどれを”true effect"と推定するかは通常困難。counterfactual theoryを用いて、その一応の回答としている。
1)provides a general framework for designing and analysing aetiologic studies
2)shows that we must always depend on a substitution step when estimating effects, and therefore the validity of our estimate will always depend on the validity of the substitution
3)leads to precise definitions of effect measure, confounding, confounder, and effect-measure modification
4)shows why effect measures should be expected to vary across populations whenever the distribution of causal factors varies accross the populations



実験系によっては観察研究から”cause effect"関係を観察研究から求めることがある。
ベイズ理論ということになるのだが、P(癌| 喫煙)、P(喫煙| 癌)という条件付き確率を念頭におくべきである。前者は観察研究での直接推定となり、後者は、対照ランダム研究での推定として用いられる。causal notion(”causal effect")である。


causal theoryは、Pearlによりレビューされ、structual-equation modelやgraphical causal models(causal diagrams)などとされている。

by internalmedicine | 2008-06-04 10:11 | 動脈硬化/循環器  

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