非劣性試験のサンプル数:麻黄湯の記事にもとづいて疑似計算してみた
2009年 05月 23日
非劣性について、その解説は、
許容する差(Δ、デルタ)とサンプルサイズの設定が重要になる。すでに既存の薬剤が存在する分野では、新薬が有効性が明らかに高い場合をのぞき、非劣性試験で有効性が同等である(少なくとも劣っていない)ことを証明する試験が行われることになる。http://www.kdcnet.ac.jp/college/naika/dh/8/8-8-r1.htmである。
ちょっと計算の練習・・・
Tもっとも単純な、binaryな近似サンプルサイズとして、α=0.05, power=0.90
2群サンプル数(n)同じで
p1=治療群イベント発生率 (R,P2を推定したとき)
p2=対照群イベント発生率
R=リスク比 (p1/p2)
対照群イベント率10%と推定(p2=0.10)で、臨床的際として40%減少を有意と仮定(R=0·60)
新規治療でα=0·05 and power=0·90. (注記: R=0·60 治療群 イベント率 p1=0·06, ie, R=6%/10%)
n=961·665≈962 in each group (PASS software version 6.0 [NCSS, Kaysville, UT, USA] with a more accurate formula yields 965)
Sample size calculations in randomised trials: mandatory and mystical
The Lancet, Volume 365, Issue 9467, Pages 1348 - 1353, 9 April 2005
で、問題の記事だが・・・
漢方「麻黄湯」、インフルにタミフル並み効果…福岡大病院を、ランダム化対照試験と仮定して、“プライマリアウトカムを24時間後解熱比率として、対照群イベント90%として、50%減少を有意と”勝手に仮定して計算すると、18名でサンプルサイズOKとなるようだ。ただし、サンプルサイズが同数でないため、この研究のサンプル数はやはり不足していると判断して良いようだ。報道のような確定的報告ではないことは確か。
http://www.yomiuri.co.jp/science/news/20090508-OYT1T00542.htm
A型ウイルスを検出した18~66歳の男女20人の同意を得て実施。うち8人はタミフル、12人は麻黄湯エキスを5日間処方した。ともに発症48時間以内に服用し、高熱が続く時は解熱剤を飲んでもらった。
服用開始から平熱に戻るまでの平均時間は、タミフルが20・0時間、麻黄湯が21・4時間でほとんど違わなかった。解熱剤の平均服用回数はタミフルの2・4回に比べ、麻黄湯は0・6回と少なくて済んだ
報告に関しては、有害性事象への配慮が重要である。繰り返すが、麻黄はいうまでもなくEphedraであり、PPAと類似した作用がある。PPAの副作用を報じた同じ号のNEJM(Vol. 343:1833-1838 Dec. 21, 2000)にephedra含有サプリメントの心血管、中枢疾患への副作用が書かれていることを思い出してほしい。以前から、FDAでは卒中発作,心臓発作,心拍異常,けいれん発作,精神病,死亡などの有害事象のため、エフェドラを含むサプリメントに対する警告、販売中止が勧告されてる(http://www.mhlw.go.jp/kinkyu/diet/jirei/ephedra.html)。
薬剤有害性を無視した報告自体が問題だし、新聞記事でも、その啓発がなければおかしい。
そもそも、ニューラミニデース阻害剤はウィルス感染確立を阻害する薬剤であり、発熱比率のみをそのアウトカムとするのはあまりに乱暴な薬剤評価である。有効性を示したいなら、肺炎などの合併症・死亡率・入院・人工呼吸・ICU入室などを比較すべきであり、単なる一項目で、“麻黄湯が有効”などと報道するのは、やはり行き過ぎである。
感染症学会で、サンプルサイズの問題と有害性記載の問題、だれもしなかったのだろうか?私が参加してたら、きっと質問しただろうに・・・
エクセルでこのような式をいれこんで、学会会場でサンプル計算をして、質問しまくりましょう!
=(10.51*((B2+1)-B1*(B2^2+1)))/(B1*((1-B2)^2))
関連:国は、ナイシトールなどの麻黄含有製品を放置し続けるつもりか? 2008-07-16
小児へのかぜ薬、鎮咳薬中止すべき? 2007-03-03
あのおそろしい薬害団体たちも、とても漢方の有害性には優しい・・・彼らの批判対象には非対称性がある。外資系製薬会社には手厳しいが伝統医療・代替医療に批判はしない.
ナイシトールなどエフェドラ含有製剤を健康に良いの宣伝と放置する厚労省
ビタミン・サプリメントなどの負の情報を決して報道しないマスコミ
日本は北朝鮮に負けない情報統制国家である
by internalmedicine | 2009-05-23 11:00 | インフルエンザ