レビュー:ベル麻痺の抗ウィルス治療(ステロイド存在下)にベネフィット認めず
2009年 06月 16日
メルクマニュアル(http://mmh.banyu.co.jp/mmhe2j/sec06/ch096/ch096e.html)も未だ
ベル麻痺は、単純ヘルペスウイルスを原因とみなして治療します。ウイルスの複製を阻害するために、アシクロビルと呼ばれる抗ウイルス薬が投与されます。プレドニゾロンなどのコルチコステロイドは、神経の腫れを抑えるために服用します。最大の治療効果を得るには、発症後2日以内に治療を開始し1〜2週間継続します。
日本神経治療学会(http://www.jsnt.gr.jp/guideline/bell.html)でも
Table 3 Bell麻痺の内科的治療の指標
I. 経口副腎皮質ホルモン(Ib-A)
・ 発症後3 日以内にが望ましいが,遅くとも10 日以内に開始する(III-C).
・ 成人ではprednisolone 1mg/kg/日 or 60mg/日を5~7 日間投与し,その後1 週間で漸減中止する(I-A).
・ 中等症以下の症例及び高齢者では prednisolone 0.5mg/kg/日 or 30mg/日を5~7 日間投与し,その後1 週間で漸減中止する(IV).
II. 経口副腎皮質ホルモンと抗ウイルス薬の併用療法
(Ib-A)
副腎皮質ホルモン投与とともに以下の抗ウイルス薬を開始する.
① Valacyclovir 1,000mg/日 分2,5~7 日間投与
② Acyclovir 1,000~2,000mg/日 分2~4,5~7 日間投与
抗ウイルス薬の単独療法は推奨されない(Ia-D).
IV. Methylcobalamin(Ib-C) 1,500μg/日 分3
寛解または発症後8 週間まで投与することが推奨される(IV).
Goudakos JK, Markou, KD "Corticosteroids vs corticosteroids plus antiviral agents in the treatment of Bell's palsy: A systematic review and meta-analysis" Arch Otolaryngol Head Neck Surg 2009; 135(6): 558-64.
Bell麻痺は、毎年10万人対20-45名罹患、突然の顔面麻痺の最大の理由であり、遺伝的要因、血管虚血、ウィルス感染・自己免疫による炎症などによるとされるが病因は不明。治療として確立されたものはなく、ステロイド治療が一般的にはなされていると、著者ら。
しかし、一部には、ウィルスが原因とするエビデンスがあるとされ、抗ウィルス治療もなされていることがある。
この問題を明らかにするため、corticosteroid単独と抗ウィルス薬併用時の、前向きランダム化トライアルのシステミック・レビューとメタ/アナリシスを行ったもの
738名の5つの研究で、そのうち3つの研究ではすでに抗ウィルス治療の相加的効果を見いだせず、ほかの2つでは見いだされていた。4つの研究はプレドニゾロン、一つはdeflazacortで、抗ウィルス薬はacyclovirとvalacyclovirである。メタアナリシス合成可能のデータは4つの研究で、二つでベネフィット有り、二つで無しというものであった。
しかし、スタート後三ヶ月の顔面麻痺の完全回復率は有意差無く、オッズ比は1.03(95%信頼区間 0.74-1.42)
3日間以内とか、異なる抗ウィルス薬などを含むなど、様々なサブグループ解析でもベネフィットのエビデンス認めない。副事象も両群差がない。
完全回復は”semisubjective”と定義し、結果にバイアスが含まれる可能性には言及している。
time-to-event解析を加え、回復機能比較のもっとも適切な方法として考えると言うことも筆者らは言及している。
わたしは、この議論の時はいつも、「めまい治療にゾビラックスTM問題」と「JIMA問題」をいつも思い出す。この場合は、エビデンスの問題どころではなく、実験的治療だったわけだが・・・この当時、各メディアはなぜかご当人を名医として紹介していた。・・・今もてはやされている“神の手”なんたらという医師たちの中にも、よく考えれば、うさんくさいのが多いわけが・・・
by internalmedicine | 2009-06-16 10:20 | 運動系