乳幼児突然死症候群

日本は世界でもSIDSが最も少ない国だそうだ。

だが、うつぶせ寝訴訟が全国で存在する。

内容もよく見れば、”うつぶせ寝をさせていたことによる窒息死 vs SIDS(乳幼児突然死症候群)”という、禅問答とならざる得ない抗争や、”うつぶせとSIDS”の因果関係の抗争など、一見にてるが、争点が違うものも多い。弁護士サイドが、勝てそうな争点を作り上げてるわけだから、このようになるのだろう。SIDSがその原因疾患としてあげられているが、この疾患原因解明がなされておらず、一つの疾患と言うより複数疾患の症候群、そして、基本的に多因子的であり、単一原因に起因するとは思えない。犯人追及に懸命になってもいったい誰の徳になるのだろう・・・という思いが一方に浮かぶ。



一般大衆的に、公衆衛生的な対策がなされることで、つぎなる犠牲者が少なくなる・・・その方が大事だと思うのだが、司法が絡むと・・・世の中、まっとうな議論ができなくなる。


さらに、うつぶせ寝だけに着目され、bed sharing(添い寝)の危険性が軽視されているのは、公衆衛生的にも問題だろう。


今日のNEJM・CME記事

The Sudden Infant Death Syndrome
Hannah C. Kinney, M.D., and Bradley T. Thach, M.D.
N Engl. J Med. Vol. 361: (8) 795-805 Aug. 20, 2009


SIDSの頻度において、日本は報告されている国では最も少なく、0.09例/1000乳幼児とかかれ、ニュージーランドは0.80で最も多く、USでは中間で 0.57例である。人種・民族間のばらつきがめだつ。
13の先進国報告で、SIDSのレビューがなされ、1990年から2005年で減少がみられ、2000年までにもっとも減少したとされる。アルゼンチン40%、アイルランド83%と減少し、SIDSの頻度はいわゆるdiagnostic shift、死亡診断書のSIDSより他の病名使用などによりマスクされる可能性がある。たとえば、偶発的窒息、体位性窒息、原因不明などとして病名報告される場合がある。このshiftはSIDS、非SIDS比率が2000年ごろから不変であることから、2000年以前に存在したことが確かである。

症候群としてであり、一つの疾患というより多くの疾患が原因と考えられ、、2-4ヶ月齢ピークに、男児に多く、胸腔内の点状出血(petchia)の存在など独立した特徴を有するが故にSIDSを single entityとして多くの研究者はみている。
定義追加修正により、一二ヶ月未満、死亡シーンの調査、睡眠周期と死亡タイミング(多くの死が関与するタイミング)などを加えて項目で定義されている。睡眠中、夜間睡眠・覚醒の交代時期に生じるかどうかは不明であり、死の瞬間が観察されてないためいまだそのタイミングとの関連は不明である。単一のSIDS定義は一般的に受け入れておらず、SIDS研究間のcontradictionは様々な定義の拝借によりなされているに過ぎない。

内在性リスク
遺伝:男性、serotonin transporterのpromoter regionをエンコードする遺伝子多形型、黒人、native american、人種グループ
発達:未熟
環境:喫煙暴露、社会経済的disadvantage

外的リスク
・側臥位・うつぶせ睡眠
・柔らかいベッド
・ベッドsharing
・軽度感染(かぜなど)



SIDSに関する新しいモデル
うつぶせ寝とSIDSの関連の認識後、体位のがトリガーになるに違いないということで関心が向き、気道圧迫、顔をふさぐことの呼気ガス再呼吸、熱の放散困難による高熱、心臓呼吸調整の熱ストレスによる障害、窒息への反応を邪魔する覚醒障害などが考察された。
他因子的データ解析にの概念化の方法として、Triple-Risk Modelが1994年提案(Biol Neonate 1994;65:194-197)され、他のモデルと同様、SIDSの病態生理に関わる多因子の相互関連を強調した。第一の要因は、子供のベースラインのvulnerabilityであり、二番目に決定的な発達時期、三番目に外因性ストレッサーである。
外因性ストレッサーは、moeostatic stressorであり、窒息などを含むものである。
誕生後1歳未満で、心臓呼吸コントロールの成熟期のの急激な変化、睡眠・覚醒の周期の間の変化、胎児から胎盤外での生活への移行、生誕後の胎児の適応など
Triple-Riskモデルによると、SIDSは正常の胎児では死亡原因とならず、本来、素因としてなりやすさがあるというもの。外因性ストレッサーの一つを除去するなら、うつぶせ寝を変えることが、vulnerableな胎児がこの時期を何事もなくパスすることとなるという考え。
最近の研究では、209名のSIDS患児85%で、circumstances "consistent with asphyxia" (窒息と一致する周辺状況)が存在、うつぶせ寝、ベッドsharingなどで、やはり、窒息が主因ではないかということが示唆されている。死因不明の乳幼児死亡の約13%以上で、偶発的・意図的窒息が関わるという調査結果があるが、この場合の窒息診断は主観的で、血液/ガスレベルを知り得ないので不明のまま。バイオマーカーがないため、窒息関連疾患なのか、vulnerable infantなのかを区別する方法がない。

by internalmedicine | 2009-08-20 11:48 | 集中・救急医療  

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