心血管疾患予防ベネフィット:アドへランス重視型 vs 対象者拡大型

脂質異常症に限らず、糖尿病でも、高血圧症でも、ぜんそくでも・・・受診者は治療を途中で中断するもの・・・と、開業医を続けるとあり得ないはずの状況が日常的になる。これに対しては、慢性期疾患患者に対する診療を熱意をもって行うことが大事で、開業医のインセンティブはこれにあるといって良い。大病院のみ存在すれば、このような慢性期疾患治療がおろそかになり、結果的には、合併症だらけの慢性期疾患患者がちまたにあふれることとなる・・・日本の厚生行政はこの方向に進みつつある。

アドへランスについて話を戻すと、個々の状況をあえて無視して、国民全体から俯瞰すれば、途中脱落のひとは無視して、治療範囲を広げ、対象者を増やして予防治療をすれば、ベネフィットを得る人がネットで増えるという考え。去るものは追わず・・・なのだが、まぁ倫理的にも許されないのだろうし、やはり、高リスク対象者こそベネフィットあるわけで、まぁ adherence無視しての臨床は成り立たないだろうと予想。

この報告は、adhrence重視型と、対象者拡大型とどちらが、総じてベネフィットがあるかというシミュレーション研究。・・・結論は明らかだろうが・・・

Shroufi A, Powles JW. Adherence and chemoprevention in major cardiovascular disease: a simulation study of the benefits of additional use of statins. J Epidemiol Community Health 2010; 64:109-113.


スタチンのadherenceを改善することのほうが、治療閾値を下げるよりadherence改善の方がCVD・CVD死亡減少に役立つという報告。
75%にスタチンadherenceを増加することで、対象者を広げるより2倍も死亡率を下げるだろうという報告。

NICE推奨では、CVD発症リスク>20%の対象者に、スタチン適応すべきとされている
一方臨床トライアルデータは強固なデータであるが、一般住民では臨床トライアルまでのadherence rateにはなかなか到達しない。ルーチンの臨床では、5年までで、約50%のadherence rateにとどまる。

治療閾値を下げて対象者を増やす戦略も考えられるが、この論文の著者、Shroufi とPowles は、 38 268 名の血圧、総コレステロール値のMelbourne Collaborative Studyから10年の治療adherenceを計算し、CVD発症、CVD死亡率をことなる戦略で計算。

リスク要因に基づき、5000名超の新規CVD発症、710名のCVD関連死亡が10年内に予想される。
NICEガイドラインに従うスタチン治療で、adherence 50%と仮定し、スタチン治療で、174名のCVD新規発症、70名の死亡と予測。

adhrence 75%と仮定すると、10年で5971名のスタチン治療が増加し、91名の新規発症CVD、37名の関連死と推定。この、アドへランス増加アプローチは、閾値を下げて対象者を増やす戦略に比較して、70名の新規発症CVD、18名の死亡をより減らすことができる。臨床の実践の場でのadherence levelを考慮しないことで、この科学予防的なベネフィットを過剰評価している部分がある。臨床モデルでは、この結果を考慮すべきである。



民主党与党政権は、急性期医療のみ主眼で、慢性期治療の主戦場である診療所をつぶそうとしている。どの程度の負の影響がでるのだろうか?おそろしいかぎりだが、僻地などは、診療所がなくなれば、急性期医療もなくなるだろう。心血管疾患なども急性期医療さえあれば良いと考えているようだろう。
疾患プロセスからいえば、急性期となる病態は残念ながら、負け戦なのである。故に、コスト効果的でもない。急性期医療の充実は非常に大切だが、かといって、慢性期・予防的治療を軽視し、破壊しようというのは、亡国的行政である。足立氏などの”病院派・急性期派”には何を言っても通じないのだろうか?

by internalmedicine | 2010-01-13 10:13 | 動脈硬化/循環器

 

<< 虚血性心疾患の安静時心拍、運動... CETP V405 valin... >>